過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群とは、腹痛、下痢や便秘、腹部膨満感などのお腹の症状・便の異常を繰り返す慢性疾患です。一般に、これらの症状は大腸疾患によって引き起こされますが、過敏性腸症候群の場合は大腸カメラ検査を行っても器質的な異常は認められません。
腹痛や下痢、便秘、腹部膨満感はいずれも比較的身近な症状であるため、「自分は単純にお腹が弱いだけで…」と病気の可能性を疑っていない方が実は過敏性腸症候群だった、というケースは少なくありません。
過敏性腸症候群は、緊張やストレスなどの精神的負荷がかかった時に腹痛が出やすい、下痢であっても排便すると症状が一時的に軽減する、という特徴がありますが、人により症状はさまざまです。
ひどい場合には1日に10回以上トイレに駆け込むということもありますが、適切な治療を行うことで改善することが可能です。
いつ腹痛や下痢が起こるか分からないといった不安から、仕事や学業など、日常生活に影響が出ることもあります。健康で豊かな生活を取り戻すためにも、専門医による診断と治療を受けましょう。
下痢型・便秘型・混合型の3種類
過敏性腸症候群は、以下の3つの型に分類できます。
下痢型
激しい腹痛とともに下痢が出るということを1日に3回以上繰り返すタイプです。下痢の後、症状が一時的に軽快するという特徴を持ちます。
突然の症状によって日常生活に支障が出る、症状が心配で外出が億劫になるというケースもあります。そしてそういったストレスが、さらなる症状の悪化を招く原因となります。
特に、若い男性によく見られます。
便秘型
腸管の痙攣によって、便秘の状態が続くタイプです。加えて、腹痛、コロコロとしたウサギのような便が出る、残便感といった症状も見られます。下痢型のような突然の症状は少ないものの、日々の不快な症状はやはりストレスとなります。
やや女性に多く見られます。
混合型
腹痛を伴う下痢と便秘を交互に繰り返されるタイプです。
過敏性腸症候群の症状チェック
- 急な腹痛と便意、下痢が繰り返される
- 急な下痢で1日3回以上トイレに駆け込む
- 下痢を出してしまうと、腹痛などの症状が治まる
- 下痢と便秘を繰り返している
- 緊張、ストレスを感じた時に腹痛・下痢がある
- 慢性的な便秘で、コロコロとした便が出る
- 慢性的な便秘で、排便後も残便感がある
- お腹が張っている、ガスが溜まっている感じがある
- 突然の下痢が心配で外出に不安がある
- 下痢や便秘で仕事・学業に支障が出ている
上記のような症状が続く場合には、過敏性腸症候群以外にも、大腸がんなどの大腸疾患が疑われます。「体質だから」「治らないだろうから」と諦めず、お早めにご相談ください。
過敏性腸症候群の主な原因
根本的な原因については未だ解明されていません
過敏性腸症候群の根本的な原因については、現在のところはっきりしたことが分かっていません。
しかし、何らかの腸の免疫の異常が発症に影響しているとの指摘があります。ストレスや緊張などが症状のきっかけとなることが多いため、自律神経の乱れなども影響しているものと考えられます。
腸と脳の関係について
腸と脳は離れた位置にありますが、実は密接な関係を持ちます。ストレスを感じると、その信号が脳から腸管神経叢へと伝達され、腹痛・便通異常・腹部膨満感・ガスなどの症状が現れます。
この仕組み自体は誰にでも存在するものですが、過敏性腸症候群の場合には、信号の伝達が起こりやすく、頻繁に、強く症状が現れてしまうのです。
腹痛・下痢は腸内のセロトニンが関与
脳から腸への信号の伝達には、腸内の神経伝達物質「セロトニン」が影響していると言われています。セロトニンの分泌によって、腸の蠕動運動が障害され、腹痛や下痢といった症状を引き起こすものと考えられます。
お腹の症状
- 腹痛
- 下痢
- 便秘
- 腹部膨満感
- 残便感
- ゴロゴロとお腹が鳴る など
お腹以外の部位の症状
- 不安感
- 不眠
- 抑うつ
- 頭痛
- めまい
- 肩こり
- 食欲不振 など
過敏性腸症候群の検査・診断
※男性医師を指定することも可能です。
過敏性腸症候群の治療法
過敏性腸症候群の治療では、薬物療法と生活習慣の改善が中心となります。
薬物療法
患者様のライフスタイルなども考慮して、相談を重ねながら、患者様お一人おひとりに合った薬を使用していきます。
生活習慣の見直し
自律神経のバランスを整えるため、規則正しい生活・十分な睡眠・ストレスの解消も大切になります。問診でお話しいただいた内容をもとに、ストレスとの付き合い方・解消方法などを、一緒に探っていきます。
薬に頼り過ぎず、生活習慣の見直しにも積極的に取り組んでいきましょう。
過敏性腸症候群の方の食べ物-低FODMAP食
過敏性腸症候群の症状悪化には、食事の内容が関係していることが分かっています。
その改善方法の1つとして、「低FODMAP食」の導入があります。FODMAPとは、小腸で吸収されにくく・大腸で発酵しやすい糖質の総称です。FODMAPを多く含む「高FODMAP食」を摂り過ぎることで症状が悪化することから、このことを念頭に置いて食事を改善していきます。
※低FODMAP食だけを食べる、高FODMAP食をまったく食べない、という食事療法ではありません。「実践方法」をよくご覧になってから、お試しください。
低FODMAP食
- 米、玄米
- 十割蕎麦
- ビーフン、フォー
- 卵
- 牛肉、鶏肉、豚肉
- 魚
- トマト、ホウレンソウ、カボチャ
- 大根、ジャガイモ
- 木綿豆腐
- メープルシロップ
- バター
- 紅茶、緑茶
高FODMAP食
- パン、パスタ、うどん、ラーメンといった小麦製品
- たまねぎ、長ネギ、ニラ
- アスパラガス、サツマイモ
- ソーセージ
- 大豆、納豆
- 豆乳
- ハチミツ
- 牛乳、ヨーグルト
- チョコレート
- アイスクリーム
- ウーロン茶
実践方法
Step1高FODMAP食の制限
4~6週間、高FODMAP食を徹底的に避けます。この期間は、食事の内容と症状の状態を記録していきます。
症状が改善した場合、高FODMAP食が原因であったと判断できます。Step2へと進みます。
症状が改善しなかった場合、高FODMAP食以外に原因があると考えられるため、ほかの治療法を検討します。
Step2高FODMAP食を1つずつ試していく
高FODMAP食に原因があったとしても、すべての高FODMAP食を避けて生活していくのは現実的ではありません。
Step1の終了後は、高FODMAP食を1つずつ食べてみて、食後の症状を確認します。食事内容、症状の状態は、引き続き記録してください。
食後に症状が現れなかった高FODMAP食については、過敏性腸症候群の原因ではないと判断できます。
Step3原因と判断された高FODMAP食を除いた食事をする
Step2で判明した、「過敏性腸症候群の原因となる高FODMAP食」を除いた食事を開始します。
多数の食品を取り除く必要がある場合には、栄養バランスの偏りがないよう、注意が必要です。